shuto_log.aep

自分がやったことなどを備忘録的な感じで残していこうと思います。

「CO5M1C R4ILR0AD」BGAメイキングブログ

はじめに

本エントリーは、下記映像作品のメイキングブログとなります。制作過程や工夫したこと、こだわりなどを記していきます。ソフトの使い方や細かい設定項目などについては割愛しています。
CGについて専門外の人にもなるべく分かりやすいように書くつもりなので、くどい表現があるかもしれません。また、飽くまで趣味範囲で個人的な内容なため、本エントリーの内容がベストとは限りませんし、考え方が一般的には不適切な可能性もありますことをご承知おきください。

CO5M1C R4ILR0AD HD

ニコニコ動画: 【BOFU2016】 CO5M1C R4ILR0AD / kanone 【BGA】 by Shuto 音楽/動画 - ニコニコ動画

Vimeo: 【BOFU2016】 CO5M1C R4ILR0AD / kanone 【BGA】 on Vimeo

BOFU2016作品ページ: 【BOFU2016 - Legendary Again - 詳細情報】 No.220 "CO5M1C R4ILR0AD / kanone " - TEAM : Futurist Voices

作品の位置づけ

本作品は、BOFU2016という同人音ゲーのイベント(というか大会?)に向けて制作したもので、kanoneさん(@kanone_alcoholi)の楽曲「CO5M1C R4ILR0AD」に対して背景映像のような形で映像をつけたものです。
音ゲーの背景映像なので一般的にはBGA(BackGround Animation)などと呼ばれる映像です。

dic.nicovideo.jp

制作期間

2ヶ月弱。大学の卒業研究や他の案件などのスケジュールの兼ね合いもあり、かなり時間的には厳しかったです。kanoneさんの楽曲が自分の好みにドハマリしていなければモチベーション的にも厳しかったでしょう。(初めてデモ曲を聞いた時は有りえん良さみすぎて思わず笑い転げました)
しかもフル3DCGでの制作を決めていたので、時間の使い方を切り詰めながらの制作でした。
自分が起きている時間帯はCGのセットアップやモデリングを行い、寝ている間や外出時にレンダリング(CGの書き出し、めちゃくちゃ時間かかる処理)を行いました。 シーンによってグローバルイルミネーションやアンビエントオクルージョンを使わずにレンダリングし、1フレームあたり1~5分くらいかかりました。平均して2分/1F前後だと思います。なので10秒くらいのシーンでも長い時はレンダリングに24時間かかるなんてこともありました。
(ちなみにこの動画は全尺合わせて4019フレームあります。)

制作過程

主な流れ

  1. 文字コンテ
  2. モデリング
  3. アニメーション付け
  4. CGシーンレンダリング、編集
  5. ブラッシュアップ

上記のように進みました。次項からより詳細に見ていきますが、実際は各工程が順番通りに進んだわけではなく、シーンごとに2~4を繰り返し、最後の1~2日で5を行いました。

文字コンテ

映像制作は数日では終わらない中長期の作業になるため、行き当たりばったりの制作だと後々全体像がバランス悪くなってしまったり、大幅な修正が出てきたりしてしまうので、最初にイメージを固めます。また、最初に固めた各シーンの構想を制作の途中で忘れてしまわないようにメモの意味でも文字コンテを作成しています。時折自分以外の作品から引用をしていますので、引用元はYouTube説明文を参照してください。
これが実際に作ったものです。右上に比較用の完成版を載せています、あと楽曲も完成前のものです。


CO5M1C R4ILR0AD 文字コンテ

実はいきなりこれが作れるわけではなく、その前段階として、通学中の電車の中などでずっとデモ音源を聴き、思いついたキーワードやシーン案などをスマホのメモに記録していきました。
f:id:shutosg:20160928100026p:plain:w300f:id:shutosg:20160928100034p:plain:w300

1枚目の様にまずは連想されるキーワードやシーンの案をパラパラと書き出していき、その中から「ここのシーンはこの表現が合うだろう」と思えるようなものは2枚目のように時間軸に沿ってメモしていきます。
ちなみに「アンチエイリアス低め」とありますが、その意図は「後からエフェクトをガンガン乗せそうだから、高めのアンチエイリアスを設定してレンダリングするのは時間がもったいないかな」と言う感じだったかと思います。(実際はそんなの忘れていつもどおりの設定だったのですが…)
時間軸に沿ったメモが完成してきたら、それを実際に文字のコンテにおこしていきます。普通のビデオコンテだったらここで絵を描いて簡易的に動かしたりしていくのですが、僕は絵を書くのが苦手なので、基本的に文字のみです。たまに参考になる動画や、想像しているシーンに近い動画を思い出したらはめ込んだりします。
また、僕はEveryday One Motion(通称EOM)という活動を行っており、毎週1作品短いGIFアニメを強制的に作る機会があるので、それを利用して簡易的にシーン案を試すこともあります。

motions.work

モデリング

今回シーンを考えている上で作る必要があると思ったモデルは下記のとおりです。

  • 機関車
  • レール
  • 信号機
  • 踏切の遮断器
  • レールを照らす電灯(結局レールを通過するリングや正方形などに置き換わった)

今までの作品ではまともに3Dモデルをモデリングせず、C4D標準の機能で作れる形を複製しただけでした。それがシーンのインパクトに欠ける原因でもあったので、今回はモデリングをしようと決めていました。
モデリングに関しては、EOMなどで仲良くしてもらっているうまうやさん(@umuy01)結構基本的だけどヘルプには載っていないことモデリングの方針や、便利なツールなど)を教えてもらいました。大変助かりました。本当にありがとうございました!
以前こんなツイートを行いましたが、ネタのように見えて実際本当のことです。

まあ確かに2→3を省きすぎなのですが、実際には絵を描いた後、だいたいのアタリを付けて粗いモデルから作り始めました。
f:id:shutosg:20160928165943p:plain:w500 f:id:shutosg:20160928170108j:plain:w500

モデリングはほとんど初めてだったので2~3週間くらいかかってしまいました。モデリングをしても映像の進捗が進むわけではないので、この間は精神的に非常に辛かったです。時間かけてるのに映像が1秒も進んでないぞと。
途中、C4Dの「polyFx」と「ランダムエフェクタ(位置、角度)」、「簡易エフェクタ(スケール)」という機能を使って、機関車をバラバラにするシーンのテストを行い、「ポリゴン(面)の大きさがある程度小さくないと映えない」という知見を得ました。(実際に下のGIFを見ると、タイヤの部分は各ポリゴンが小さいので良くバラバラになっているのですが、タイヤのカバー部分は動きがダサいのが良くわかります。)
f:id:shutosg:20160928170555g:plain:w500

なお、デザインが左右対称のため、左半分を作って最終的にそれを複製クローナー)しています。こうすることでデザインに修正が出てきたとしても片方の変更だけで済みます
f:id:shutosg:20160928171751p:plain:w500 f:id:shutosg:20160928171801p:plain:w500

列車のデザインについて、片面がこうなっています。
f:id:shutosg:20160928172150p:plain:w500

この側面部分の制作の流れですが、

  1. アタリを付けた直方体から頂点の位置を動かして大まかな形を調整する
  2. ナイフツールや面の押し出しツール、内側に押し出しツールなどで頂点を増やし、ある程度映えるデザインになるように形を整える
  3. それを複製して形や大きさに違いをつけていくことでデザイン的な物量を増やす

となっています。
この時のこだわりですが、「複製するからといって(物量が増えるからといって)デザインを疎かにしてはいけない」ということです。複製前の要素のデザインがかっこよいほど、複製した時にパッと見が「うおすげえ!」となるからです。これは去年僕が、百舌谷さんが配布されているray of thanatosという作品のaep(作業ファイル)を隅々まで見たことによって得た知見です。(aepは百舌谷さんのツイートを参照のこと)
機関車のデザインについては、普通の機関車は楽曲の雰囲気に合わないと思い、昨年のGabrielMirageという作品で作った翼の雰囲気を踏襲することにしました。あと単純に尖ったデザインが好きなのです。GabrielMirageはray of thanatosをオマージュした作品なので、さらにたどるとそこにデザインの由来があるのかもしれません。
拙作GabrielMirage -Rebirth- BGAより:
f:id:shutosg:20160928173200p:plain:w500
百舌谷さんのray of thanatos BGAより:
f:id:shutosg:20160928173212p:plain:w500

こうしてデザインと複製を繰り返して先頭車両ができたら、2両目以降のモブ車両も先頭車両を元に作成していきました。こちらもやはり複製+デザイン微変更で作っています。作中でじっくり見られることは無いので、各パーツの配置や大きさなどを変えてしまえば無駄な努力をせずに“良い感じ”になります。
f:id:shutosg:20160929051938p:plain:w500 f:id:shutosg:20160929052010p:plain:w500

上の2枚を見比べると、先頭車両の後ろ半分を複製・反転したりと、デザインの流用に微調整しただけなことが分かると思います。

なおマテリアルについてはかなり適当です。僕自身こだわれるほどマテリアルの知識がなく、適当に良さげなプリセットが用意されていたためです。唯一こだわった点は白と黒の配色です。これは仮面ライダーデルタをイメージして、暗闇で車体のラインが映えるように意識しました。各パーツのエッジ部分が白くなっている事が多いです。
f:id:shutosg:20160929052414p:plain:w500

信号機と遮断器については、以前のEOMの時に作ったイラレのデータに加え、新規に作成したパスデータをC4Dにインポートして作りました。インポートはもちろんCV-ArtSmartにお世話になりました。
f:id:shutosg:20160929060514p:plain:w500 f:id:shutosg:20160929060521p:plain:w500 f:id:shutosg:20160929060526p:plain:w500

アニメーション付け

アニメーション付けではその名の通り制作したモデルに、時間軸に沿って動きを付けます。
狙った動きになるように何度も試行錯誤をします。C4Dの標準のプレビューは、シーンが重くなるとカクカクでまともに再生できなくなるので、ハードウェアプレビューを多用しました。「プレビュー作成」から選択できます。
ただ、プレビューの生成にも時間はかかるために、なるべく試行錯誤の回数を減らしたかったので、以前うまうやさんに頼まれて書いたスクリプトを使用しました。
このスクリプトは端的に言うと、C4Dでの音合わせがちょっとだけ楽になるものです。(詳細は長くなるので割愛)
これらを活用して各シーンのアニメーションをつけていきました。
ただ、時間的な問題から、なるべく労力が省けるように努力しました。モデリングのときと同じように似たようなシーンでは複製&微変更でパターンを水増ししました。
今回の曲は前半部分で激しくカメラを切り替える演出が必要だったのですが、そこでは6カメラくらいを切り替えるシーンを1つだけ作り、それのレンダリング設定&エフェクトを変えたものを用意してパターンを水増ししました。カメラ速度は遅くしておいて、後でAE側から好きなように伸縮させました。


cuts

こだわりというか、いつも通りですが動きはイージングを意識しました。後半のカメラワークは疾走感を出すために緩急を付けました。動きの入りは最大速度で、その後一気に減速、止まらずにゆっくり(ほぼ)等速移動。このキーフレームを基本に、動かす方向や角度を変えることでパターンを増やしました。
カメラのキーフレーム
f:id:shutosg:20161008020224p:plain:w500
緩急をつけたカメラワーク(画像はハードウェアプレビュー)
f:id:shutosg:20160929070230g:plain:w500
また、車体に「振動」タグを用いてY軸方向のみブルブル震えさせることでより“機関車っぽさ”を演出しています。

CGシーンレンダリング、編集

CGのレンダリングは上述通り1Fあたり1~5分です。寝ている間に行いたいので、起きている時になるべくシーンをセッティングしたり、AEで編集したりしました。
レンダリングの終わってないシーンのAEでの編集は、ハードウェアプレビューをavi保存したものを用いてタイミングの調整やディストーション(画面を歪ませる)系エフェクトのみの適用を行いました。そしてレンダリングした後に差し替え、色味の調整などを行いました。
こちらが編集途中段階の動画です。前半シーンはレンダリングも大まかな編集も終わっていますが、後半(1:18~)はレンダリングが出来ていない状態で編集をしています。


CO5M1C R4ILR0AD 編集途中段階
また、1:17の声ネタの聞き取りを間違えていたり一番最後のサビ?(1:43~)のシーンに"とりあえず"で作ったシーンを仮置きして構成を試している様子が伺えます。(伺わなくていい)

ブラッシュアップ

この工程では主に音に合わせたディストーションエフェクトを追加したり、既にあるエフェクトの密度を高めたり、タイミングの微調整、一部シーンのデザインや構成の変更などを行いました。

音に合わせたディストーションの追加の例


CO5M1C R4ILR0AD 音に合わせたディストーション

シーンの密度の変更をした例(静止画)
f:id:shutosg:20161008011758p:plain:w640

シーンのデザインを変更した例


CO5M1C R4ILR0AD シーンのデザインの変更

その他細かい色味や雰囲気の調整(周辺ぼかし、周辺色収差などのポストエフェクトを含む)や、シーンの構成の組み換え(特に前半の切り替えが多いシーン)、空いていた空白のシーン埋め、ミスのあったシーンの再レンダリングなどを行いました。
とりわけブラッシュアップにおけるLooksの調整やデザイン密度については、縁あってレクさん(@reku_AL)と映像についてお話させて頂いた時に得た知見(文量的に詳細は割愛します)も多く活かされて、レクさんには感謝しかありません。本当にありがとうございました。

おわりに

今回の制作は主にkanoneさんから2度目に送られてきた"ブラッシュアップ版音源"を用いて行っていたのですが、Soundcloudに公開された完成版の音源を聴いたところ、さらに細かく音が追加されていたので「こんなの聴いてないぞ~更に密度上がってるやん~~高まる~~~」とか思いながらも、このめちゃくちゃカッコいい音楽に負けないように映像も本気で、特に「動きや視覚における情報密度」「音に合った気持ちよさ」を意識して制作しました。
ひとまずは今回の制作に満足してこういう文章も書いているわけですが、他のBOFU2016のBGAを見たり、落ち着いて考えたりすると、やはりまだまだ凄くてカッコいいBGA作品は沢山あるわけで、そういった作品に対して再生数や完成度も劣りを感じます(特に、これだけ満足のいった制作だったのに、尊敬している百舌谷さんに本記事執筆時点で再生回数もマイリス数も既に倍以上の差を付けられているのがとっても悔しい!もちろん動画の人気は複合的な要因が絡んでるのはわかってるし、指標も様々だけど、やっぱり敵わないかー!と清々しいくらい。)。社会人になる来年以降満足のいく制作が出来るかは分かりませんが、まだまだ負けていられないと感じましたし、これからも凄い作品を目指して制作していきたいと思いました。(社会人とか言ってるけどその前に卒論がry)
P.S. 本作品の制作に対しての質問などはTwitterなどに気軽にリプライでも飛ばしてください。